Contens
「コーヒーではなく体験を売る」Starbucksの戦略
Starbucks。
世界80か国以上、約35,000店舗を展開する世界最大のコーヒーチェーンです。
1971年にシアトルで創業し、現在では年間売上約3.6兆円を誇る巨大企業に成長しました。
創業者の一人、ハワード・シュルツはこう語っています。
「私たちはコーヒービジネスではなく、ピープルビジネスをしている。コーヒーを提供する人々のビジネスだ」
Starbucksが売っているのは、コーヒーそのものではありません。その店舗で過ごす時間、居心地の良い空間、バリスタとの会話、自分だけのカスタマイズドリンク。つまり「体験」を売っているのです。
今回は、Starbucksの「体験を売る」戦略から学ぶ、顧客体験設計の考え方についてお話しします。
Starbucksが実践した「サードプレイス」という概念
Starbucksの成功を語る上で欠かせないのが「サードプレイス」という概念です。サードプレイスとは、家でも職場でもない第三の居場所という意味で、ハワード・シュルツが1980年代にイタリアのカフェ文化からヒントを得て提唱しました。
彼がイタリアで見たのは、朝のエスプレッソを楽しみながら新聞を読む人々、仕事帰りに立ち寄って友人と語らう人々、バリスタと常連客の親しげな会話でした。そこには単にコーヒーを飲む以上の「体験」がありました。
アメリカに戻ったシュルツは、この文化をStarbucksに取り入れることを決意します。家(ファーストプレイス)でも職場(セカンドプレイス)でもない、リラックスできる第三の場所を作る。それがStarbucksの基本戦略となりました。

体験を売るための5つの設計
それでは、Starbucksは具体的にどのように「体験」を設計しているのでしょうか。5つのポイントから見ていきましょう。
1. 空間デザイン
Starbucksの店舗に入ると、独特の雰囲気に包まれます。温かみのある照明、木目を基調とした内装、快適な座席配置。これらはすべて計算されたデザインです。
単に「コーヒーを飲む場所」ではなく、「ここで過ごしたくなる場所」として設計されています。長時間滞在しても居心地が良く、仕事をしたり読書をしたり、友人と会話を楽しんだりできる空間になっています。BGMも慎重に選ばれており、ジャズやアコースティックな音楽が流れることで、落ち着いた雰囲気を演出しています。
2. カスタマイズの自由
Starbucksでは、ドリンクを自分好みにカスタマイズできます。ミルクの種類を選ぶ、シロップを追加する、ホイップクリームの量を調整する。この「自分だけの一杯」を作れることが、特別な体験を生み出します。
さらに、カップに名前を書いてもらえるサービスも、個人を認識してもらえる体験として機能しています。大量生産のコーヒーチェーンでありながら、一人ひとりに合わせたパーソナルなサービスを提供しているのです。
3. バリスタとのコミュニケーション
Starbucksのバリスタは、単なる注文を受ける人ではありません。彼らは「コーヒーマスター」として訓練を受け、お客様との会話を大切にするよう教育されています。
常連客の好みを覚えていたり、おすすめのカスタマイズを提案したり、ちょっとした雑談を交わしたり。こうした人間的なつながりが、機械的なファストフードチェーンとの大きな違いを生み出しています。
4. 一貫したブランド体験
世界中どのStarbucksに入っても、基本的な体験は変わりません。もちろん各店舗には地域性もありますが、コアとなる体験は一貫しています。シアトルで感じた心地よさが、東京でも、ロンドンでも、上海でも再現される。この一貫性が、ブランドへの信頼を生み出します。
旅行先で見知らぬ街を歩いているとき、Starbucksを見つけるとホッとする。それは「ここに入れば、いつもの体験ができる」という安心感があるからです。
5. デジタル体験の統合
近年Starbucksは、モバイルアプリを通じたデジタル体験にも力を入れています。アプリで事前注文してレジに並ばずに受け取れる「モバイルオーダー」、利用するたびにポイントが貯まる「リワードプログラム」、季節限定メニューの通知など、デジタルとリアルをシームレスにつなげています。
これにより、店舗での体験がさらに便利で快適になり、顧客のロイヤルティも高まっています。

なぜ「体験」を売ることが重要なのか?
ここまで読んで、こう思った方もいるかもしれません。「なぜStarbucksは、コーヒーそのものではなく体験にこだわるのか?」
答えは明確です。コーヒーだけで勝負すれば、価格競争に巻き込まれるからです。
実際、コンビニのコーヒーは100円程度で買えます。一方、Starbucksのコーヒーは400〜600円します。味だけで比較すれば、この価格差を正当化するのは難しいでしょう。
しかし、Starbucksが提供しているのは「居心地の良い空間で過ごす時間」「自分だけのカスタマイズドリンク」「バリスタとの会話」といった体験です。これらは価格で比較できません。体験には、それぞれの人にとっての主観的な価値があるからです。
ある人にとって、Starbucksで仕事をする2時間は600円以上の価値があります。ある人にとって、友人とゆっくり話せる空間は何物にも代えがたいものです。体験を売ることで、Starbucksは価格競争から抜け出し、独自の価値を提供しているのです。
ビジネスにおける「体験設計」の応用
Starbucksの戦略は、あらゆるビジネスに応用できます。あなたが提供している商品やサービスも、「体験」という視点で見直すことができるはずです。
例えば、あなたがオンライン講座を販売しているとします。商品そのものは「動画教材」かもしれませんが、実際に顧客が得るのは「新しいスキルを身につける体験」「同じ目標を持つ仲間とつながる体験」「講師から直接フィードバックをもらえる体験」です。
これらの体験をどう設計するかによって、同じ内容の講座でも顧客満足度は大きく変わります。動画をただ配信するだけなのか、それとも質問に丁寧に答えたり、受講生同士が交流できるコミュニティを用意したり、定期的なライブセッションを開催したりするのか。体験の設計次第で、提供価値は何倍にもなります。
WEB集客においても同じです。単にLPで商品を説明するだけでなく、「読んでいて共感できる」「自分の未来が想像できる」といった体験を設計することが大切です。
体験設計のための3つの質問
それでは、あなたのビジネスで体験を設計するには、どうすればいいのでしょうか。まずは以下の3つの質問に答えてみてください。
質問1: お客様に何を「感じて」欲しいですか?
商品を手にしたとき、サービスを受けたとき、お客様にどんな感情を抱いてほしいですか。安心感、高揚感、特別感、達成感。感情を明確にすることが、体験設計の第一歩です。
質問2: そのために、どんな「接点」がありますか?
お客様との接点を洗い出しましょう。Webサイト、SNS、メール、実店舗、パッケージ、カスタマーサポート。すべての接点が体験を形作ります。Starbucksが店舗の照明から音楽まで細部にこだわるように、すべての接点を意識的に設計する必要があります。
質問3: 一貫した体験を提供できていますか?
すべての接点で一貫した体験を提供できているか確認しましょう。Webサイトの雰囲気とメールの文面が違う、SNSの投稿とサービスの内容がズレている。こうした不一致は、ブランドへの信頼を損ないます。
Starbucksから学ぶ最大の教訓
Starbucksが教えてくれる最大の教訓は、「人は商品そのものではなく、その商品がもたらす体験を買っている」ということです。
コーヒーを買っているのではなく、居心地の良い時間を買っている。動画教材を買っているのではなく、スキルアップする体験を買っている。LP制作サービスを買っているのではなく、売上が上がる未来を買っている。
あなたのビジネスでも、「何を売っているか」ではなく「どんな体験を提供しているか」という視点で見直してみてください。そこに、価格競争から抜け出し、顧客に選ばれ続けるヒントがあります。





